1983年 Apple Macintoshプロモーションビデオの再考

ここのところすでにご紹介したようにMacintosh生誕25周年を受け、「Macintosh 128K マニュアル」「MACWORLD 創刊号」などMacintosh誕生にかかわる古いアイテムを見直している。今回はあらためて1983年にAppleが製作したMacintoshのプロモーションビデオを見る機会があったので気づいたあれこれを聞いていただこう。

 
リアルタイムに事象を眺め情報を集めていても特にそれがAppleのような外国企業であるならもともと発表されたもの以外に正確な情報を得るのは難しい。ましてや当時にMacintoshという新しいパーソナルコンピュータ誕生に関わる企業活動がどのように展開したか、あるいはそれらがどのように影響し合っているかなどまったく知る由もなかった。
しかしすでに25年という歳月が過ぎ、その間に膨大な情報を見聞きすることができるようになったことも含め、現在から当時を俯瞰するとなかなか興味深いことが分かって面白いものだ。

勿論当時のAppleは画期的なパーソルコンピュータとして開発したMacintoshを市場やユーザーにどのように知らしめ、思惑通りの販売に結びつけるかをあれこれと模索しながら大きな予算を投入し広告宣伝にも務めたことは知られている。
あの1984年の第18回スーパーボール開催に合わせて製作した伝説的なコマーシャル「1984」ひとつをとってみてもその本気加減は分かるわけだ...。

また「MACWORLD誌」というメディアを立ち上げや大型展示会の「MACWORLD Expo」を企画推進、あるいは1984年に早くもCary Lu著「The Apple Macintosh Book (邦題はアスキー出版局刊~Macintoshそのインテグレーテッドソフトの世界)」出版に協力するといったことや、可能な限りメディアに登場してMacintoshの知名度を向上させる努力をした時代でもあった。

そうした活動のひとつにプロモーションビデオがある。
今回ご紹介する映像はYouTubeに2つに分けてアップされているが、その最後に「1983 Apple Computer, Inc.」とクレジットがある本作品は間違いなくMacintosh誕生に関わるプロモーションビデオの中で最も初期の作品のひとつに違いない。

 


 
※今回取り上げた1983製のクレジットがあるMacintoshプロモーション映像

 
先にご紹介した「Macintosh 128K マニュアルの秘密!?」でも取り上げたとおり、そこには明らかにMacintoshのプロトタイプマシンが登場し、製品のリリース時期を横目で睨みながら準備を進めていたAppleの苦悩が伝わってくるようで興味深い。
そしてご承知の方も多いと思うが、当初AppleはMacintoshの出荷を1982年のはじめと計画していたが間に合わず、1983年5月に目標変更した。しかしその時期を過ぎてもMacintoshは完成できなかったのである...。
開発者たちは週90時間以上も労働を続け、数々のプレッシャーと戦いながらやっと1984年1月24日の発表にこぎ着けたわけだ。したがって当時はそうした状況を知る由もなかったが、考えてみればその困難な時期と平行して企画製作されたであろうマニュアルやらプロモーションビデオが文字通りの製品版Macintoshを使って製作できたわけはないのである。

 「Macintosh 128Kマニュアル」の一部の写真に使われているMacintoshは明らかにプロトタイプのものであり細部が製品とは違うわけだが、同じようにこのプロモーションビデオに登場する映像もさまざまなことを我々に教えてくれる。
まず気づくのはいくつかのシーンに登場するMacintoshの背面だが、マニュアルの写真と同様に“Macintosh”のエンブレムがなく、かつアップルロゴとの左右の位置がこれまた製品とは逆なのだ。

oldfilm1983_03.jpg

※Macintosh背面のアップルロゴの位置が出荷された製品のそれと違うし"Macintosh"というエンブレムが付いていない

 
したがってこのビデオに登場するマシンはマニュアルに使った写真を撮ったものと同様なプロトタイプである。しかしマニュアルでは分からなかったことがこのプロモーションビデオではっきりと写っていることもある。
それはMacintosh 128Kに付属していたワンボタンマウスのプラグデザインが実際に出荷されたものとはまったく違うことだ。

oldfilm1983_04.jpg

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※当該ビデオ映像に紹介されているワンボタンマウスのプラグ(上)と実際に出荷された製品のプラグ(下)


それからビデオ映像の中に女性がMacintoshをキャリーバッグに収めて自転車のバスケットに入れ街中を走るシーンがある。これはマニュアルのスタンフォード大学構内を自転車で走る男性のコンセプトに通じるものだが、どうやら同じ自転車...同じバスケットのようだ。

oldfilm1983_06.jpg

※キャリングケースに入れたMacintoshを自転車のバスケットに入れて運ぶのもマニュアルと同じコンセプトだ

 
同じといえばもうひとつ気づいたことがある。
このプロモーションビデオにはスティーブ・ジョブズも登場する。
背景にある大きなアップルロゴの前にスーツ姿で座って話す彼のスーツならびにネクタイは「MACWORLD 創刊号」の表紙を飾ったそれと同じように思えるのだが...。

oldfilm1983_05.jpg

※スティーブ・ジョブズのスーツならびにネクタイがMACWORLD誌創刊号の表紙のそれと同一のように思える...

 
ビデオでは画質の関係上スーツの細かなディテールまでは不明だが、もしかしたらこうした一連の撮影は同時に行われていたのかも知れない。
無論本来お洒落な人は同じお気に入りのスーツを数着オーダーするものだと聞いたことがあるが、大金持ちだとはいえ当時のスティーブ・ジョブズはスーツを喜んで着用したとは思えない。とはいえまさか一張羅だということもないだろう...。ただし映像を見た限りはほとんど同じに思えるしネクタイはまず間違いなく同じもので、かつそのネクタイの結び目は両方共に少し左よりに結ばれているのも彼の共通した癖なのか、あるいはスタイリストの癖なのか...。

まったくの推測だがこのプロモーションビデオとMACWORLD誌の表紙の撮影が同日の可能性も否めないのかも知れない。
さらにアングルが多少違うがジョブズの髪のボリュームもほぼ同じように思える。
何しろ前記したように当時彼らはMacintoshの出荷を実現するために寝る間も惜しんでいた時期であり、そのリーダーだったジョブズにしても悠長に「今日はビデオ撮影」明日は「雑誌の撮影」などと余裕のあるスケジュールなど立てようがなかったはずだ。

過去を振り向かないというジョブズならびにAppleがこうした "些細な" 過去のことに附言するとは思われないが、こうして複数の資料を比べてみると当時AppleがMacintoshの販促活動に対してどのような戦略・姿勢で取り組んでいたのかという片鱗を俯瞰できて興味深い...。
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Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員