「Vanlandingham」プログラムの思い出再考

「Vanlandingham」という古いソフトウェアの画面を「Apple 資料室」に載せてあるが知人から「これって...何?」というメールを貰った。オールドマックユーザーなら胸のすくようなエピソードを持ったこのソフトウェアを特別の思いで記憶に宿しているかも知れないが、ほとんどの方は当然のことながら知る由もない...。

 
「Vanlandingham」はプログラムサイズがたった14KBの小さなアプリケーションだが、最初期のMacintoshユーザーにとっては忘れられないソフトのひとつとなのである...。
Macintoshは当時最新のGUIを持って生まれてきた。しかし当初はアプリケーションが少ないとか、メモリが少な過ぎるとか、そしてモニタが小さくモノクロだとか...といった批判もなかったわけではない。

確かに往時他のパソコンと比較すると飛び抜けた先進性を感じるMacintoshだったが、実は早々にMacintoshを凌駕するのでは...と思われたマシンが登場したのである。それが1985年にCommodore社が発売したAMIGAだった。
AMIGAは早くからGUIとマルチタスク処理を取り入れた画像処理能力とサウンド重視のパソコンとして登場し、主にゲーム向けとして支持された。
私もお茶の水駅近くのマンションにショップを開いていた "パイナップル" でAMIGAを何回か使わせてもらったことがある。

正直、その魅力的なカラー画面と迫力のあるサウンド、そして確かに複数のソフトウェアが同時に走る強力なマシンを見て「これは凄い...」と思った。ただ何故か私はそれを欲しいとは思わなかった...。
結局AMIGAも日本語化の遅れの問題でつまずいた感があったが、それ以前にCommodore社が倒産し、経営体制が流転するうちに残念ながら一般には忘れ去られるはめになった。しかし現在でも熱心なファンが世界中にいるようだ。

さてそのAMIGAだがその関連サイトを覗くと赤と白の格子で彩られた球体が表示されるページがあった。
実は1985年当時、このボールがはね回るデモはAMIGAの強力なカラーおよびグラフィック能力を見せ付ける象徴的存在としてMacintoshユーザーにも驚異と写ったのである。

この「Vanlandingham」というプログラムはそうしたMacintoshユーザーの心理を十分承知した上でBoston Computer Societyから1986年に配布されたパブリックドメインソフトであった。それは無論カラーではなく、サウンドも出なかったがMacintoshのグラフィック能力も "ここまでできるぞ" という事実を示す具体的なアピールであり、だからこそ当時のユーザーグループなどでこのデモは大いに受けた。

実際「Vanlandingham」を起動すると約1分ほど待たされる間に表示する "About the program..."に明記されているように「このVanlandinghamは、AMIGAで驚かされたデモへのMacintoshの答えだ」とある。

vanlandingham_about.jpg

※「Vanlandingham」のAbout the program...画面


また "About the program..." には続けて簡単な使い方と、LisaやMac XLでは動かない旨が記され、最後にBoston Computer Societyの紹介と年間28ドルで入会できるという勧誘のメッセージがある。
その使い方の注意にはアニメーションが滑らかでない場合にはAppleTalk、デバッガ、スクリーンセーバー、時計表示をはじめ他のバックグラウンドプログラムを終了させてくれとあり、さらにマウスを動かすことさえアニメーションの速度を遅くするとあり、Macintoshの処理能力の限界を見せつけられた思いもしたものだ。



※「Vanlandingham」の "About the program..."とプログラム開始から終了まで


「Vanlandingham」は起動すると、透視画的に描かれたバックグランドの前に白と黒の格子縞模様の球体が何ともスムーズに...その陰と共に優雅にバウンドしながら回転する。なお、マウスボタンのクリックで動きを止めたり再開することができ、何らかのキーボードを押すことで球体は "じわ〜っ" と消えてプログラムは終了する。
ただそれだけのことなのだが、つい見続けてしまう魅力を「Vanlandingham」は持っている。

実はこの「Vanlandingham」がプログラムされたエピソードがこのソフトウェアを特別のものとして記憶させているのだ。
それはこの「Vanlandingham」は、あるカンファレンスかなにかの席で、AMIGAユーザーから「マックにはこんなことはできないだろう」と言われたプログラマーたち(Boston Computer Societyのメンバー)が、その言葉に発奮して、なんとそのカンファレンスの期間中に書き上げたものだという。

そうしたニュアンスが前記したAbout the program...の記述に見え隠れするように思う。
というわけで、大げさに言うなら、「Vanlandingham」は最初期のMacintoshユーザーにとって小さな "誇り" を取り戻し、加えて多少の "優越感" を持つことに貢献した記念すべきソフトウェアだといえるのかも知れない。


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員