私製アップルロゴ入り「レターヘッド」物語

ここに薄い一冊のレターヘッドがある。A4版で20枚組となっているこのレターヘッドには、左上に6色のアップルロゴマークが燦然と輝いているが、実はこれは私製なのである。今では考えられないアップルロゴ入りレターヘッド物語をお送りする(笑)。


そもそも個人はもとよりだが企業にしても、アップルロゴ入りの何か...を作ることは無理でありほとんどその可能性はない。Appleは良い意味で自社のロゴの使用を厳正に管理し、貴重な財産とみなしている。したがって一部の例外を除いて、一般企業が自社製品にアップルロゴを入れることは許されない。 
そのような大変厳しい使用制限のあるアップルロゴがなぜ私の作った私製レターヘッドに輝いているのか...。それが今回の物語である。無論数多いAppleユーザーの中でも個人でこうしたAppleロゴ入りアイテムを、それもオフィシャルに作った人はほとんどいないという...。 

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※1983年に作った私製Appleロゴ入りレターヘッド。無論不正な品ではない(笑)


さて、Macintoshが登場する直前の1983年12月10日と11日の二日間、東京の後楽園展示会場で「第3回Apple Fest東京」という展示会が開催された。 
その2,3ヶ月前だと思うが相変わらずイーエスディラボラトリ社に出入りしていた私に、社長のTさんから意外な誘いがあった。「Apple Festという展示会にブースを持ってみない?」と...。 
当時の私はサラリーマンだったし、AppleやAppleIIになにがしかの関係はあっても、それらを仕事としていたわけではなかった。 
「ビデオデジタイザを専門に展示して欲しいのよ! 勿論ブースの出展料は取らないからさ...」との話。思わず私は膝を乗り出しOKしてしまったのである(笑)。 
そしてブース展示をより楽しくする秘策を考えはじめた。それは私のブースしかない何かを置きたいと考えたのだ。確かにApple IIによるビデオデジタイザのシステムを展示し、それに関わるソフトウェアやハードウェアの話ができるのは私のブースだけだろう。しかしもうひとつ、来場者が喜んでお土産に買っていただける何かが欲しかった。 

考えた末にある種のアップルグッズを作りたいと思い至った。それまでにもマグカップやピンなどはあったが、私が作れるもので喜んでもらえるものは何か...。結局会社の近所の印刷所に依頼し、アップルロゴがカラーで入ったレターヘッド、すなわち便箋を作ることになったのである。 
まずはその旨をイーエスディラボラトリ社の社長に申し入れ、正式な許可を受けた。当時イーエスディ社はAppleの日本総代理店であり、ここに正式許諾を受ければそれはオフィシャルなものであった。しかし覚悟はしていたもののカラー印刷の少量生産は大変金がかかることが分かった。 
結局当時(約23年前である)の金で140,000円もかかることになった。売れても売れなくても作る費用は私の個人負担である(^_^;)。そしてレターヘッドというものは通常50枚とか100枚をひと束としてつづるものだが、それでは一冊あたりのコストがかかり、高くなり過ぎて誰も買ってくれないものになってしまう。仕方がないので一冊あたりの価格を下げるため結局20枚綴りになったのだった。 

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※後楽園展示場で開催された「Apple Fest」会場の様子


実はApple Festの初日、考えもしないドラマが私を待っていた。 
当時アップルジャパン2代目社長の福島氏が私のブースに立ち寄ったのである。一通り展示品を眺め、早速レターヘッドに目をやり「このロゴの使用は許可をとったのか」と質問してきたのだった。まあ...福島社長としては当然だろう。 
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※「Apple Fest」に出展参加した際の私のブース。2種アップルマガジンが平積みしてある左(ビデオカメラの右)に積んであるのが私製Appleロゴ入りレターヘッドである


私も意地が悪いから福島社長の顔は雑誌などで知ってはいたものの「失礼ですが、どなたさまですか?」と聞き返した。そして「アップル日本総代理店のイーエスディラボラトリ社に許可を受けた。そちらに確認し、問題があればイーエスディラボラトリ社にクレームをつけてくれ」と対応した。事実私は正式に許可を受けたのだから...。 


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※2日間の開催中ブースはかなり混雑した。手前は当時のApple IIユーザーならお馴染みのメディアセールス・ジャパン社ブース 

しばらくして再度アップルの社長の姿が見えたとき、話がこじれるのかな...と思ったものだが、社長はすっと私のブースに近寄り「このレターヘッドを○冊ください」と茶目っ気を見せて買ってくれたのにはホッとしたのと同時に嬉しかった...。無論その後に何らの問題も生じなかった。 
しかし当時もわざわざ金をかけてこのようなものを作ろうなどと考える者はいなかったのだろう。制作費の元手を取るまでにはいたらなかったが多くの方たちに喜んでいただけたことは今でも良い思い出となっている。そして現在、たった一冊だけ...そのレターヘッドが手元に残っているというわけだ。その福島正也氏は2002年9月17日に永眠された。あらためて...謹んでご冥福をお祈りしたい。 

初めてのことばかりだったがブースにおけるお客様とのやり取りやデモの仕方などなど、この2日間は後に私がMacWorldExpoに出展や自社のプライベート・ショーなどを開催するとき、大いにそのノウハウは役立ったのである。
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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員