Wozのサイン入り「APPLE-1 OPERATION MANUAL」考
パーソナルコンピュータの歴史の中でApple I を忘れることはできない。もしスティーブ・ウォズニアックがApple Iを作らなかった現在のAppleは存在しなかったに違いない。そしてApple Iのポリシーはより洗練された形でApple IIに受け継がれパソコンで世界を変える原動力となった。
ただしApple I は時代的にもマニアックな世界でしか知られていなかったからいまの私たちにはApple I の全容を知ることは難しい...。
したがってここであらためてApple Iのアーキテクチャやそのハードウェア的なあれこれの話をするつもりはない。
私自身残念ながらApple Iの実機を手にしたこともないし、そもそも2006年の9月にテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」にApple Iが登場した際600万円の値がついたようなものを手に入れることなどできる訳もない。
またApple Iは例えばLisaといったコンピュータとは別次元の製品であり、コレクターなら垂涎ものだろうが私などが手にしたところでまったく活用できないだろう。したがってレプリカが売り出された際も興味はわかなかった。

※ガラスのケース越しに撮影したApple I
ご存じの通り、Apple Iは1976年にリリースされたがその正式な名称は「Apple Computer 1」で、Apple IIのように購入後すぐに使える完成されたコンピュータではなく販売されたのはメインボードとカセットテープ・インターフェースだけであり、購入者は別途キーボード、電源を用意して組み立てなければならなかった。無論ケースはなく、必要ならこれまたユーザー自身で好きなデザインのものを作る必要があった。
モニターはNTSCコンポジット出力をサポートしていたため家庭用テレビを代用でき、供給されたカセットテープベースのBASICを前記したカセットテープ・インターフェース経由で読み込ませることが出来た。しかし1977年にワンボードマイコンからこの世界に入った私にしても今さらその不自由な時代を体現したいとは思わない(笑)。
ともかく現在残されているApple Iの写真を見るとその多くは木製のケースに入っているのがほとんどだが、それは木材は加工しやすく作りやすかったからに他ならない...。私もワンボードマイコン用に木製のケースをいくつか作ったものだ。

※1977年入手のワンボード・マイコン富士通 L Kit-8を収納するために自作したケース。撮影は1978年
ただしApple Iの歴史的な存在意義は申し上げるまでもなく大きなことだし、スミソニアン博物館にも所蔵されているこのパーソナルコンピュターの歴史に欠かせない製品を資料でわかり得ることは何でも知りたいと思ってきたことは確かである。
現物はともかくマニュアルは入手できないかとこれまで探してみたが、当然のことながら通常マニュアルはハードウェアと一体であり、170台ほど販売された後にApple IIへのアップグレードも災いし、世界中を探しても十数機種しか存在しないのではないかと言われているApple Iだからそのマニュアルもほとんど残っていないに違いない。
しかし過日やっとApple Iの開発者であるスティーブ・ウェズニアックの直筆サイン入りだという「Apple I Operation Manual」を入手した。
どうやらサインは本物のようだが、12ページのマニュアルそのものは複製である。まあ...私が必要なのは内容そのものなのだから当時のApple Iのきちんとしたコピーであれば資料としては十分だと考えたわけである。

※筆者所有「Apple I Operation Manual」表紙。ブルーのペンでウォズニアックの直筆サインがある
原本のマニュアルは「APPLE-1 OPERATION MANUAL」と題され12ページと薄いながらきちんと製本されていたという。
興味深いのはタイトルの下にプリントされている社名である。それはこの1976年当時Apple社はまだ正式に法人として登記する前だったのでその名は「APPLE COMPUTER COMPANY」とある。また上部には大きくApple最初のロゴが描かれている。
このロゴはよく知られているようにアイザック・ニュートンが林檎の木に寄りかかっているもので、Apple共同設立者のひとりだったロン・ウェインの手によるビクトリア調のペン画である。しばらくの間はこのロゴが使われたもののスティーブ・ジョブズが堅苦しくそして小さなサイズにして使うには相応しくないと考え、1977年4月に広告会社レジス・マッケンナのアート・ディレクターであったロブ・ヤノフに依頼し、結果としてあの6色アップルロゴが誕生する...。
このロゴひとつの逸話にもジョブズの先見性と拘りの凄さが見て取れるではないか。したがって確かにAppleという企業はApple Iなくしては始まらなかったが、Appleという企業イメージを創作したのはやはりスティーブ・ジョブズの力だったといえよう。
さてマニュアルの内容だが、OPERATION MANUAL といっても現在の一般ユーザー向けと考えると大きな間違いである。
前記したようにそもそもApple Iを扱うにはハードとソフトの知識がないと使い物にならなかったからである。したがってスペック記述から始まり、キーボードやモニターそして電源はどのようなものが適合するか、そしてそれらの接続が正しく行われているかを検証するテストプログラムの実行方法などが2ページ目までに紹介されている。
そうそう...前後するがマニュアルのテキストはタイプで打たれたものを原稿にした簡素なものだ。
3ページと4ページはシステムモニターの解説、そして5ページと7ページまでが 6502 の16進モニターリストやキーボードならびにディスプレイ・インターフェースについての解説がある。

※「6502 HEX MONITOR LISTING」ページ
8ページ目は「HOW TO EXPAND THE APPLE SYSTEM」について、その後は3ページ渡りApple Iの回路図といったハードウェア解説となっており、裏表紙にあたるページは「WARRANTY」すなわち保証に関する説明になっている。


※Apple Iの回路図部分(上)と回路図のタイトル部位(下)。そこにはApple Computer社創立に関わった3人の名が記されている(下)
特に興味深かったのは回路図にある制作者たちの名である。そこには回路図を描いたのはR.WAYNE、デザイン・エンジニアとしてS.WOZNIAK、プロジェクト・エンジニアとしてS.JOBSの名がある。無論この3名はApple Computer社の創立メンバー全員であり、それぞれロン・ウェイン、スティーブ・ウォズニアック、そしてスティーブ・ジョブズのことなのは申し上げるまでもないだろう。
そして記述の年は1976年であり、すでに33年の歳月が流れているわけで、思わずこのマニュアルを眺めている私自身も遠い過去を見つめる視線になってしまう...。
ただしApple I は時代的にもマニアックな世界でしか知られていなかったからいまの私たちにはApple I の全容を知ることは難しい...。
したがってここであらためてApple Iのアーキテクチャやそのハードウェア的なあれこれの話をするつもりはない。
私自身残念ながらApple Iの実機を手にしたこともないし、そもそも2006年の9月にテレビ東京「開運!なんでも鑑定団」にApple Iが登場した際600万円の値がついたようなものを手に入れることなどできる訳もない。
またApple Iは例えばLisaといったコンピュータとは別次元の製品であり、コレクターなら垂涎ものだろうが私などが手にしたところでまったく活用できないだろう。したがってレプリカが売り出された際も興味はわかなかった。

※ガラスのケース越しに撮影したApple I
ご存じの通り、Apple Iは1976年にリリースされたがその正式な名称は「Apple Computer 1」で、Apple IIのように購入後すぐに使える完成されたコンピュータではなく販売されたのはメインボードとカセットテープ・インターフェースだけであり、購入者は別途キーボード、電源を用意して組み立てなければならなかった。無論ケースはなく、必要ならこれまたユーザー自身で好きなデザインのものを作る必要があった。
モニターはNTSCコンポジット出力をサポートしていたため家庭用テレビを代用でき、供給されたカセットテープベースのBASICを前記したカセットテープ・インターフェース経由で読み込ませることが出来た。しかし1977年にワンボードマイコンからこの世界に入った私にしても今さらその不自由な時代を体現したいとは思わない(笑)。
ともかく現在残されているApple Iの写真を見るとその多くは木製のケースに入っているのがほとんどだが、それは木材は加工しやすく作りやすかったからに他ならない...。私もワンボードマイコン用に木製のケースをいくつか作ったものだ。

※1977年入手のワンボード・マイコン富士通 L Kit-8を収納するために自作したケース。撮影は1978年
ただしApple Iの歴史的な存在意義は申し上げるまでもなく大きなことだし、スミソニアン博物館にも所蔵されているこのパーソナルコンピュターの歴史に欠かせない製品を資料でわかり得ることは何でも知りたいと思ってきたことは確かである。
現物はともかくマニュアルは入手できないかとこれまで探してみたが、当然のことながら通常マニュアルはハードウェアと一体であり、170台ほど販売された後にApple IIへのアップグレードも災いし、世界中を探しても十数機種しか存在しないのではないかと言われているApple Iだからそのマニュアルもほとんど残っていないに違いない。
しかし過日やっとApple Iの開発者であるスティーブ・ウェズニアックの直筆サイン入りだという「Apple I Operation Manual」を入手した。
どうやらサインは本物のようだが、12ページのマニュアルそのものは複製である。まあ...私が必要なのは内容そのものなのだから当時のApple Iのきちんとしたコピーであれば資料としては十分だと考えたわけである。

※筆者所有「Apple I Operation Manual」表紙。ブルーのペンでウォズニアックの直筆サインがある
原本のマニュアルは「APPLE-1 OPERATION MANUAL」と題され12ページと薄いながらきちんと製本されていたという。
興味深いのはタイトルの下にプリントされている社名である。それはこの1976年当時Apple社はまだ正式に法人として登記する前だったのでその名は「APPLE COMPUTER COMPANY」とある。また上部には大きくApple最初のロゴが描かれている。
このロゴはよく知られているようにアイザック・ニュートンが林檎の木に寄りかかっているもので、Apple共同設立者のひとりだったロン・ウェインの手によるビクトリア調のペン画である。しばらくの間はこのロゴが使われたもののスティーブ・ジョブズが堅苦しくそして小さなサイズにして使うには相応しくないと考え、1977年4月に広告会社レジス・マッケンナのアート・ディレクターであったロブ・ヤノフに依頼し、結果としてあの6色アップルロゴが誕生する...。
このロゴひとつの逸話にもジョブズの先見性と拘りの凄さが見て取れるではないか。したがって確かにAppleという企業はApple Iなくしては始まらなかったが、Appleという企業イメージを創作したのはやはりスティーブ・ジョブズの力だったといえよう。
さてマニュアルの内容だが、OPERATION MANUAL といっても現在の一般ユーザー向けと考えると大きな間違いである。
前記したようにそもそもApple Iを扱うにはハードとソフトの知識がないと使い物にならなかったからである。したがってスペック記述から始まり、キーボードやモニターそして電源はどのようなものが適合するか、そしてそれらの接続が正しく行われているかを検証するテストプログラムの実行方法などが2ページ目までに紹介されている。
そうそう...前後するがマニュアルのテキストはタイプで打たれたものを原稿にした簡素なものだ。
3ページと4ページはシステムモニターの解説、そして5ページと7ページまでが 6502 の16進モニターリストやキーボードならびにディスプレイ・インターフェースについての解説がある。

※「6502 HEX MONITOR LISTING」ページ
8ページ目は「HOW TO EXPAND THE APPLE SYSTEM」について、その後は3ページ渡りApple Iの回路図といったハードウェア解説となっており、裏表紙にあたるページは「WARRANTY」すなわち保証に関する説明になっている。


※Apple Iの回路図部分(上)と回路図のタイトル部位(下)。そこにはApple Computer社創立に関わった3人の名が記されている(下)
特に興味深かったのは回路図にある制作者たちの名である。そこには回路図を描いたのはR.WAYNE、デザイン・エンジニアとしてS.WOZNIAK、プロジェクト・エンジニアとしてS.JOBSの名がある。無論この3名はApple Computer社の創立メンバー全員であり、それぞれロン・ウェイン、スティーブ・ウォズニアック、そしてスティーブ・ジョブズのことなのは申し上げるまでもないだろう。
そして記述の年は1976年であり、すでに33年の歳月が流れているわけで、思わずこのマニュアルを眺めている私自身も遠い過去を見つめる視線になってしまう...。
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