ウォズの写真に見るApple II デビューの日

友人からまるでパソコン考古学みたいだな…と言われるほどこれまでAppleの誕生を起点にその前後の時代を探ってきた。スティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアック自身でしか分からない当時の心情に立ち入ることは不可能なものの、少しでもそれに触れたいという思いからだ。また当時のユーザーたちの思い描いていたパーソナルコンピュータの姿がどのような物だったかについても知りたいと考えてきた。


これまでも当サイトでは2人のスティーブがいかに巡り会い、そしてApple Computerという会社を起業するに至ったのかに関して幾多の資料を考察しながら話を進めてきた。
AppleとそのCEOだったスティーブ・ジョブズがあまりにも有名になったおかげで近年は多くの情報が飛び交うことになったが、しかしそれらのほとんどはここ10年ほどの出来事であり、起業した前後の情報は相変わらず極めて少ないし信憑性を疑うものも増えている。

無論それは当然のことで、Appleが起業した1976年、そして法人化した1977年には我々の前にインターネットはなかったしAppleという会社がアメリカの西海岸にあること、そしてApple IIというパソコンが発売されたことは知っていてもそれは遙か遠く一般の人たちには手の届かない出来事だった。そして事実すでに35年ほども前の出来事でもあり、残されている第一次資料もそう多くはないはずだ。
しかし少ないながらも当時の信頼に足る資料を手に入れ、まるでジグソーパズルの欠けたピースを組み立てていくような過程で何らかの真意が見えてくるように思える。

さて、今回のテーマはAppleが法人化した1977年1月から4ヶ月後にウォズの開発したApple II はジョブズの望むとおりプラスチックのケースに収められてデビューした。その日の2人のスティーブに焦点を当ててみたいと思う。
実は先日スティーブ・ウォズニアック直筆サイン入りの写真を入手した…。
そこにはウォズの手で “4/16/1977 Apple II Debut” と書かれ、最後に自身のサインを記している。ただしウォズには悪いが、ウォズのサインが欲しくてこの写真を入手したのではない(笑)。私にとって直筆サインより、写真背景およびウォズ自身の手で記入した “4/16/1977 Apple II Debut” というテキストの事実が重要なのだ。

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※1977年第1回ウエストコーストコンピュータフェア(WCCF)で自社ブースを背景にしたスティーブ・ウォズニアックの写真と直筆サイン


その意味を蛇足ながら説明すれば「1977年4月16日はApple IIがデビューした日」ということだが、事実その日は第1回ウエストコーストコンピュータフェア開催日で、文字通りApple IIがはじめて一般にお披露目された日であり、Apple Computer, Inc.という企業自体の存在も同時にはじめて広く認知された記念すべき場であった。
そしてウォズの背景に写っている映像はおぼろげで情報は少ない物の、間違いなくApple社のブースであり、象徴的ないくつかの物が写っている。

この第1回ウエストコーストコンピュータフェアについてはこれまでに別途「第1回ウエストコーストコンピュータフェア(WCCF)開催物語」や「第1回WCCFにおけるAppleブース出展経緯の考察」といった記事をご紹介し、当時のAppleがどのような形でこの西海岸で開催されたた初めて大がかりなコンピュータフェアに出展したかという経緯などを少しずつ解き明かしてきた…。

その過程であらためて理解できたことはジョブズの功績の大きさである。
Appleという企業の創世記を語るとき、ウォズニアックこそが偉大であり、彼がいなければAppleは存在しなかったと力説する人も多い。自身技術者の方たちは同じ土俵で天才として崇められたウォズニアックを好む人が多いようだし、なによりも彼の人柄が好きだという評価も目立つ。だからこそウォズニアックの作ったコンピュータをあたかも自身の手柄のようにし、いいとこ取りをしたジョブズなど、何の功績もないではないか…という声も以前は多かったように思える。

無論2人のスティーブがいなければAppleという会社は存在しなかったのだから、どちらか一方が欠けても歴史に名は残らなかっただろう。しかし当時の古い情報を精査しているとそれまでアマチュアの域を出ていなかったウォズニアックの能力に明確なビジョンを与えてApple IIを製品化し、それをビジネスに乗せた功績は間違いなくジョブズの力だということがわかる。

ウォズの作る基盤をプラスチックのケースに入れ、6色ロゴをレジス・マッケナにデザイン依頼し、結果マイク・マークラの多大な支援を取付てAppleのスタート基盤を作ったのはジョブズである。なにしろウォズは法人化するまで自分はこれまでの会社を辞めるという意識はなく、ジョブズをはじめ回りに説得されてやっと同意したというありさまだった。そもそも自分の作ったものは仲間に評価されればそれで満足だったわけでジョブズがいなければ企業としてのスタートは望めなかったに違いないし、その後のパーソナルコンピュータの歴史もかなり様子が変わったに違いない。

当時は金もなく髪が背中まで垂れ、髭だらけでまるでベトナムの農民みたい(レジス・マッケナの談)な格好の上にサンダル履きのジョブズだったが、それまで修羅場をくぐってきたプロたちに胸襟を開かせる天才的な “人たらし” の魅力が備わっていたというしかない。初期の頃のジョブズには、どこか気になって助けてやろうと思わせる魅力が備わっていたようだ。

今回、このウォズニアックのサイン入りの写真を手に入れて分かったことがいくつかあるのでそれをご紹介してみよう。
まず以前に手に入れたスティーブ・ジョブズの若かりし頃の写真がある。どこかでご覧になったことがあるかも知れないが、三つ揃えのスーツ(上着は脱いでいるが)とネクタイを締めた姿だが、初めて彼がスーツを着て人前に出たのは1977年4月開催の第1回ウエストコーストコンピュータフェアだったという。それもマイク・マークラなどから勧められたからという話だからこの写真はその第1回ウエストコーストコンピュータフェアで撮られたものに違いないと考えていたが個人的には確信が持てなかった。

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※この2枚の写真は同じ場所で撮られたと推察できる。なおウォズのサインは直筆に間違いないがジョブズのサインはまがい物だろう


確かに背景にはごく初期に使われていた実写の林檎をデザインしたパネルが飾られているが、社名のプレートも写っていないので断言するにはいささか情報が少なかった。しかし今回ウォズニアックの写真を手に入れそれに間違いないことが分かった。
なぜならウォズの背景にも同じ林檎の写真が写っていること、そして幸いこちらにはジョブズの写真よりブースから離れたところで撮影されたものなのだろう…ブース上には出来たばかりの6色アップルロゴと apple computer Inc. とデザインされたプレートがかかっているのがわかる。

先のジョブズの写真は壁に近いところで撮影されたのだろうが右肩側にほんの少し四角いものの一辺が写っているが、ウォズの写真でそれがモニターとして用意されたテレビのキャビネットらしいことがわかる。
さらにジョブズのベストに止められているネームプレートは写真が暗くてよく分からなかったが、ウォズのそれと比較して見るとカードホルダーの上にあるデザインは同一だから、常識的に考えて同じイベント場所で撮られたことが推定できるわけだ。そして何よりもウォズ自身がこの自身の写真を “4/16/1977 Apple II Debut” と明記しているのだから間違いないだろう…。なお後に別途2人で一緒に写真に収まっている事実も知った。

それにしてもこの第1回ウエストコーストコンピュータフェアにおけるジョブズとウォズニアックの格好の違いは面白い。
共に長髪でひげ面という出で立ちで決して清潔感があふれた顔つきではないが(笑)、当時のハッカーやヒッピーは皆こんな感じの姿だったから由としても、ジョブズがスーツ姿なのにウォズは何色かは不明だが決してセンスが良いとも思えないシャツ姿だ(笑)。ここにもコンピュータフェアに際して両者の思い入れの違いが表れているのではないだろうか。

マイク・マークラらに説得されたとはいえジョブズはきちんとスーツを着用しているし事実彼はブースに詰めて大活躍していたという。無論Appleのプースにいたのはジョブズだけではなく、ウォズの他に社長のマイク・スコット、クリス・エスピノサやランディ・ウィギントンらも説明や来場者の対応に追われていた。

ただしマイク・マークラは主に会場内を回り、代理店の確保に努力していたが肝心のウォズは得意のいたずらを考案し、想像上の新型マシンのパンフレットをでっち上げてジョブズまでをも欺いた。
要するに良い悪いは別にしてジョブズはビジネスとしてこの機会を捉えたからこそ本来は意にそぐわないスーツ姿になってブースに立ったが、ウォズはこの期に及んでもまだ遊び感覚だったに違いない(笑)。

Appleにとってこの第1回ウエストコーストコンピュータフェアは大変大きなデビューの舞台だった。ウォズが写真にサインしたようにApple IIというパーソナルコンピュータのお披露目のチャンスだっただけでなくAppleという企業が大きく飛躍するその第一歩であり、6色ロゴの使用を含めて彼らがビジネスとして動き出した最初の大きなイベントだったのだ。
このウォズの写真と別途ジョブズの写真は一緒に見比べて考察すると意外に雄弁で様々なことを教えてくれるのである。


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Author:mactechlab
主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。2017年6月3日、時代小説「首巻き春貞 - 小石川養生所始末」を上梓(電子出版)。続けて2017年7月1日「小説・未来を垣間見た男 スティーブ・ジョブズ」を電子書籍で公開。また直近では「木挽町お鶴捕物控え」を発表している。
2018年春から3Dプリンターを複数台活用中であり2021年からはレーザー加工機にも目を向けている。ゆうMUG会員