1979年制作ロシア版「シャーロック・ホームズとワトソン博士」を観る
世界中で聖書の次に大量部数が読まれているというシャーロック・ホームズ物語だからこれまた多くの役者によって映画やテレビ、舞台などで演じられてきた。私もシャーロッキアンの一人としてこれまでかなりの数の作品を観てきたつもりだがこの度 “30 yaers Anniversary Edition” としてリリースされた1979年制作のロシア版シャーロック・ホームズ物語の存在を最近知った次第。
ロシアにもホームズとワトソン二人の銅像があるという。そのモデルは今回ご紹介する作品「シャーロック・ホームズとワトソン博士」のホームズ役、ワシーリー・リヴァーノフとワトスン博士役、ヴィターリー・ソローミンだというからその人気ぶりは理解していただけるだろう。またホームズだけの銅像は珍しくないもののワトソン博士と二人の像ができたのはやはり「シャーロック・ホームズとワトソン博士」の影響に違いない。
この邦題「シャーロック・ホームズとワトソン博士」はソ連時代の1979年にレニングラード、現在のサンクト・ペテルブルグでテレビ放映用として制作されたものだ。本国でも放映直後から人気が高まり結局1986年までに計5本の作品が作られることになった。
また当時は冷戦時代であったもののベルリンの壁を越え、西側諸国においてもひそかに録画され知られていったという。そして本家のイギリスでも評判がよくイタリアのテレビドラマ祭では受賞もしているほどの人気作品らしい。

※「シャーロック・ホームズとワトソン博士」パッケージ
「シャーロック・ホームズとワトソン博士」は「交流」と「血の署名」と題された2部構成になっているが、コナン・ドイル原作の「緋色の研究」と「まだらの紐」のストーリーを元に脚色している点が特徴である。そしてタイトルからも推察できるように本作品のコンセプトは事件の謎解きというよりホームズとワトソンの性格描写および友情に重点をおいている点にある。
ちなみに「緋色の研究」はホームズ物語のスタートであり、ホームズとワトソンが出会い、部屋を共同で借りて使い始めるという要のストーリーが展開されるわけだが、後半の犯行に至った歴史が導かれる第二部のストーリー展開の映像化が少々退屈でやっかいなためか、映画は1933年制作のレジナルド・オーウェン主演作品などが目立つもののストーリーは別物だしこれまできちんと映像化さたものは少ない。そしてホームズ物語の定番となったグラナダTV制作ジェレミー・ブレッド主演の一連の作品「シャーロックホームズの冒険」でも残念なことに「緋色の研究」は制作されていない。
そもそもホームズ物語がこれだけ長い間世界中で読まれ続けているのはそれが単なる探偵小説だからではないといえよう。一番面白い点は何と言ってもホームズとワトソンの友情であり彼らの言動からそれぞれ暖かい人間性が見え隠れすることだ。また事件やトラブルを解決するためにベーカー街221Bを訪れた依頼人たちとのさまざまな人的交流が生き生きと描かれているからこそホームズ物語はリアリティを感じられるわけなのだ。
その二人が出会う原点が「緋色の研究」だからして本来ホームズとワトソンがどのようにして知り合いそして信頼関係を築いていったかを知るには本編は不可欠な存在なのだ。
確かに「緋色の研究」は小説として怠惰に感じる部分もあるしドイルの原作も粗を探せば矛盾する内容もあるものの、ともかくホームズとワトソンの出会いのシーンがあるからこその価値なのだ(笑)。
本編「シャーロック・ホームズとワトソン博士」は二人の出会いから友情が深まるまでを断片的ながら見事に見せてくれる点がユニークでありシャーロッキアンには貴重で楽しい作品なのである。
ドイルの原作にも当初ワトソンがホームズの職業がわからずいろいろと推察する部分もあるが、そのワトソンの自然で当然な心理が上手に描かれていて面白い。
ただし制約のあるテレビドラマとしては原作をどのように脚色したらより主題が明確になりかつ原作のオリジナリティを損なわずにユニークさを出せるかという点が制作者側の難しいところだろう。そうした意味で本作品も原作とは些か違ったストーリー展開を描いている。
例えばシャーロック・ホームズとドクター・H・ワトソンが初めて出会うのは聖バーソロミュー病院の実験室なはずだが、本作品ではすでにホームズが借りているベーカー街の部屋で会っていること。また「まだらの紐」で原著は依頼主の女性を別の部屋で待機させ、ホームズとワトソンの二人だけで危険を予知した部屋でクライマックスを迎えることになっているが、本編では依頼主も共に同じ部屋で事件の確証を得る...などなどだ。また制作の時代背景を感じさせることとしてはこの初対面のときホームズはワトソンに「アフガニスタンに行ってきましたね?」と言う名シーンがあるわけだが本編では「東方植民地に...」と変更されている。これは1979年に勃発したアフガン紛争の影響から台詞を差し替えられたためだという...。
さて実際にDVDを鑑賞した感想だが、まずワトソンの役柄がおちゃらけていなくて真面目なのがよい。ただしグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」などの印象が強いからか、ヴィターリー・ソローミン役のワトソンは若すぎるようにも思える。しかしホームズ役のワシーリ・リヴァーノフとワトソン役のヴィターリー・ソローミンの二人はいずれも舞台や映画でキャリアを積んだベテラン俳優というだけあって安心して観ていられたがホームズといえば古くはクリストファー・リー、イアン・リチャードソンあるいはロバート・スティーブンスとか最近では死去後もこれぞホームズという誉れが高いジェレミー・ブレッドの印象がどうしても強いためまずはホームズ役が私の頭の中でうまく納まるのかが問題だった。
ともあれホームズ役のワシーリ・リヴァーノフのホームズはお洒落だったりしてなかなか素敵で思ったよりその姿に違和感はなかったものの正直リヴァーノフの声がどうもしっくりこない。というよりそのしわがれた声がちょっと耳について仕方がない...。とはいえ作品としては大変良くできているというべきだろう。
何と言ってもホームズとワトソンとの友情の深まり具合が時間と共に見て取れ、後に多くの難事件を共にすることになる二人の人格を浮き立たせるのに成功していると思う。
前記したように5本作られた作品のうちで現在正規な形で手に入るのはこの「シャーロック・ホームズとワトソン博士」だけのようだが、別途「バスカヴィル家の犬」がリリースされるという情報もあるようで楽しみである。
確かにグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」の一連の作品は大変クオリティの高い優れたものだが、時代が違い、国が違い、そして制作者・監督が違った作品を鑑賞できるのは無類の喜びである。それは丁度、ひとつの交響曲を別の指揮者、別のオーケストラで聞くような意外性と新しい発見の楽しみがあるからだ。
ロシアにもホームズとワトソン二人の銅像があるという。そのモデルは今回ご紹介する作品「シャーロック・ホームズとワトソン博士」のホームズ役、ワシーリー・リヴァーノフとワトスン博士役、ヴィターリー・ソローミンだというからその人気ぶりは理解していただけるだろう。またホームズだけの銅像は珍しくないもののワトソン博士と二人の像ができたのはやはり「シャーロック・ホームズとワトソン博士」の影響に違いない。
この邦題「シャーロック・ホームズとワトソン博士」はソ連時代の1979年にレニングラード、現在のサンクト・ペテルブルグでテレビ放映用として制作されたものだ。本国でも放映直後から人気が高まり結局1986年までに計5本の作品が作られることになった。
また当時は冷戦時代であったもののベルリンの壁を越え、西側諸国においてもひそかに録画され知られていったという。そして本家のイギリスでも評判がよくイタリアのテレビドラマ祭では受賞もしているほどの人気作品らしい。

※「シャーロック・ホームズとワトソン博士」パッケージ
「シャーロック・ホームズとワトソン博士」は「交流」と「血の署名」と題された2部構成になっているが、コナン・ドイル原作の「緋色の研究」と「まだらの紐」のストーリーを元に脚色している点が特徴である。そしてタイトルからも推察できるように本作品のコンセプトは事件の謎解きというよりホームズとワトソンの性格描写および友情に重点をおいている点にある。
ちなみに「緋色の研究」はホームズ物語のスタートであり、ホームズとワトソンが出会い、部屋を共同で借りて使い始めるという要のストーリーが展開されるわけだが、後半の犯行に至った歴史が導かれる第二部のストーリー展開の映像化が少々退屈でやっかいなためか、映画は1933年制作のレジナルド・オーウェン主演作品などが目立つもののストーリーは別物だしこれまできちんと映像化さたものは少ない。そしてホームズ物語の定番となったグラナダTV制作ジェレミー・ブレッド主演の一連の作品「シャーロックホームズの冒険」でも残念なことに「緋色の研究」は制作されていない。
そもそもホームズ物語がこれだけ長い間世界中で読まれ続けているのはそれが単なる探偵小説だからではないといえよう。一番面白い点は何と言ってもホームズとワトソンの友情であり彼らの言動からそれぞれ暖かい人間性が見え隠れすることだ。また事件やトラブルを解決するためにベーカー街221Bを訪れた依頼人たちとのさまざまな人的交流が生き生きと描かれているからこそホームズ物語はリアリティを感じられるわけなのだ。
その二人が出会う原点が「緋色の研究」だからして本来ホームズとワトソンがどのようにして知り合いそして信頼関係を築いていったかを知るには本編は不可欠な存在なのだ。
確かに「緋色の研究」は小説として怠惰に感じる部分もあるしドイルの原作も粗を探せば矛盾する内容もあるものの、ともかくホームズとワトソンの出会いのシーンがあるからこその価値なのだ(笑)。
本編「シャーロック・ホームズとワトソン博士」は二人の出会いから友情が深まるまでを断片的ながら見事に見せてくれる点がユニークでありシャーロッキアンには貴重で楽しい作品なのである。
ドイルの原作にも当初ワトソンがホームズの職業がわからずいろいろと推察する部分もあるが、そのワトソンの自然で当然な心理が上手に描かれていて面白い。
ただし制約のあるテレビドラマとしては原作をどのように脚色したらより主題が明確になりかつ原作のオリジナリティを損なわずにユニークさを出せるかという点が制作者側の難しいところだろう。そうした意味で本作品も原作とは些か違ったストーリー展開を描いている。
例えばシャーロック・ホームズとドクター・H・ワトソンが初めて出会うのは聖バーソロミュー病院の実験室なはずだが、本作品ではすでにホームズが借りているベーカー街の部屋で会っていること。また「まだらの紐」で原著は依頼主の女性を別の部屋で待機させ、ホームズとワトソンの二人だけで危険を予知した部屋でクライマックスを迎えることになっているが、本編では依頼主も共に同じ部屋で事件の確証を得る...などなどだ。また制作の時代背景を感じさせることとしてはこの初対面のときホームズはワトソンに「アフガニスタンに行ってきましたね?」と言う名シーンがあるわけだが本編では「東方植民地に...」と変更されている。これは1979年に勃発したアフガン紛争の影響から台詞を差し替えられたためだという...。
さて実際にDVDを鑑賞した感想だが、まずワトソンの役柄がおちゃらけていなくて真面目なのがよい。ただしグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」などの印象が強いからか、ヴィターリー・ソローミン役のワトソンは若すぎるようにも思える。しかしホームズ役のワシーリ・リヴァーノフとワトソン役のヴィターリー・ソローミンの二人はいずれも舞台や映画でキャリアを積んだベテラン俳優というだけあって安心して観ていられたがホームズといえば古くはクリストファー・リー、イアン・リチャードソンあるいはロバート・スティーブンスとか最近では死去後もこれぞホームズという誉れが高いジェレミー・ブレッドの印象がどうしても強いためまずはホームズ役が私の頭の中でうまく納まるのかが問題だった。
ともあれホームズ役のワシーリ・リヴァーノフのホームズはお洒落だったりしてなかなか素敵で思ったよりその姿に違和感はなかったものの正直リヴァーノフの声がどうもしっくりこない。というよりそのしわがれた声がちょっと耳について仕方がない...。とはいえ作品としては大変良くできているというべきだろう。
何と言ってもホームズとワトソンとの友情の深まり具合が時間と共に見て取れ、後に多くの難事件を共にすることになる二人の人格を浮き立たせるのに成功していると思う。
前記したように5本作られた作品のうちで現在正規な形で手に入るのはこの「シャーロック・ホームズとワトソン博士」だけのようだが、別途「バスカヴィル家の犬」がリリースされるという情報もあるようで楽しみである。
確かにグラナダTV制作「シャーロックホームズの冒険」の一連の作品は大変クオリティの高い優れたものだが、時代が違い、国が違い、そして制作者・監督が違った作品を鑑賞できるのは無類の喜びである。それは丁度、ひとつの交響曲を別の指揮者、別のオーケストラで聞くような意外性と新しい発見の楽しみがあるからだ。
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