iPhone版「聖書 新共同訳」に見る私的聖書物語

聖書研究というと大変恐れ多い物言いだが、私はこれまで数冊の聖書と共にデジタル化されたものもいくつか手にしてきた。それはキリスト教を信じるというより私たちの日常感覚からは馴染みにくい、分かりづらいその聖書の一字一句を多少なりとも理解したいというのが動機だった。無論信仰は理解するのではなく信じることが大切なのだろうが残念ながら私はまだそこには至っていない...。

 

私がキリスト教...というかイエス・キリストに興味を持ったきっかけは意外と思われるかも知れないが遠藤周作(1923年3月27日~1996年9月29日)一連の作品を読んだのがきっかけである。
特に「死海のほとり」「イエスの生涯」ならびに「キリストの誕生」には大きな衝撃を受けたと同時にそれまで異国の神であり信じるも信じないもほとんど縁のない対象だったイエス・キリストが歴史上の人物として私の心に強い痕跡を残した。
なにしろイエス・キリストといえば当然のことながら神の一人子であり多くの奇蹟を行い、歩けない人を歩かせ、目の見えない人の目を開眼させ、死んで四日も経ったラザロを蘇らせたというから凡人にそのまま「信じろ」と言われても「はい、分かりました」とはいえない(笑)。
しかし遠藤周作が描いたイエスは違った。奇蹟を行わずただただ弱い者、病人の手を握りながら一緒に苦しみを分かち合うという人物として描かれていた。そして弟子12使徒も皆心の弱いただの人間であり、イエスを裏切ったのはあのユダだけでなくすべての弟子はその時、イエスを拒絶したどうしようもないダメ人間だったと描写されていた。
ただし遠藤周作は読者にたたみかけるような書き方はしないものの、その我々と同じような弱い人間の弟子たちがその後に何故布教活動で命を落とすまでの強い意志を持つに至ったのか...を問う。それは彼らが間違いなくイエスの復活に居合わせたからだ...というのがテーマなのだ。

私は弱いイエス、人間としてのイエスに興味を持ち日本語で読める可能な限りの書籍などを読んでみたが、正直どれもこれも遠藤周作が描く人間味溢れるイエスにはほど遠く(当たり前だが)、近寄りがたいものばかりで挫折が続いていた。
それに教義がどうのこうのといった深みにははまらないよう意識してきたものの、そもそも聖書は実話なのかフィクションなのか、もし実話を記録したものであるなら信頼できるものなのかを知りたくてこれまた時間のある限り自分なりに追ってみたがなかなか納得できる文献には巡り会うことができないでいた。

bible_01.jpg

※愛用の聖書だが小型判なので老眼にはきつい


ともかく聖書の内容は日本人には理解できにくい内容ばかりで何度読み始めてもいつも挫折するばかり。その理由は内容そのものが時代の違いはもとより我々とは文化がまったく違う世界の話であり、聖書の物語にリアル感を感じられないからであった。
例えばヨハネによる福音書2章に婚礼へ参列したイエスが水を葡萄酒に変えたという有名な奇蹟のシーンが登場する。ちなみにこれはイエスの奇蹟デビューなのである。
そこでは母であるマリアがイエスに「ぶどう酒がなくなりました」と言うとイエスは「婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません」と答えるシーンがあるが、何だか会話自体が異質でその意味が分からないでいた(笑)。
なぜマリアがイエスに「ぶどう酒がなくなりました」と言わなければならないのか、また「わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません」という返事は何を意味しているのか...。

bible_051.jpg

※ギュスターヴ・ドレによる「カナの婚礼」シーン。ここでイエスは水をぶどう酒に変えるという奇蹟を行ったという


イエスの言動は何だか普通でないように思えるし、それぞれの行動や行為のシチュエーションも明確でないため面白い、面白くない以前に読み続けるパワーが続かなく、聖書を手にすることは単なる苦行としか思えなかった...。
しかし以前にも書いたことがあるが、神の子イエスは理解できなくても紀元一世紀前後に実在したナザレのイエス、史的なイエスを知りたいとこれまた個人的に手探りしてきたが、近年歴史的な考証を踏まえた優れた研究も多く、信仰の基盤となる神うんぬんは別にしても聖書に書かれているあれこれは考古学的にも学問としても信頼できるものだという事も知り、私のイエス探求熱はまたまた再燃したのである(笑)。

例えば事件記者のリー・ストロベル著「ナザレのイエスは神の子か?―「キリスト」を調べたジャーナリストの記録」(いのちのことば社刊)によれば、四福音書と呼ばれるイエスの一代記に関する権威として、アメリカ中にその名を知られた哲学博士のクレイグ・L・ブロンバーグ氏曰く、ルカやヨハネの福音書が目撃証言に基づいて書かれたこと、マルコの福音書が紀元70年代に、マルタとルカが80年代、そしてヨハネが90年代に書かれたことで専門家の意見統一がなされ、この時代はまだイエスの行動を見聞きした人が生きている時代であり、もし誤ったことが書かれればそれこそ反対者たちに攻撃の材料を与えるようなものであり、そうした面からも内容は信頼できるものだと明言している。
イエスの死んだ年を紀元30年あるいは33年とすれば福音書が書かれるまでの時間のギャップは他の古典的資料と比較して異常に短く、ニュース速報並みであり伝説化する時間的余地などなかったという。

聖書の記述が信憑性のあるものだという証拠は多々あるようだが、私自身が最初に納得したひとつにイエスが復活直後、最初に出会ったのがマグダラのマリアなど女性たちだと書かれていることだ。なぜなら当時一世紀のユダヤでは社会における女性の地位は大変低いものだった。
「律法を女性に伝えるならば、燃やしてしまったほうがよい」という格言があったり、法廷でも女性が合法的証言者として認められることさえなかった...。
したがって聖書の書き手たちも本来ならイエス復活後最初にその姿に出会うのはペトロなど男の弟子たちであって欲しいし、創作や伝説として書かれるならそう脚色したかったに違いない。その方が信憑性を増すと考えても不思議ではない。しかし聖書にはそのイエス復活という最大のクライマックスに女性たちを主役として立てたのはそれがまさしく真実だったからだしこの一点をとっても聖書の記述は脚色や伝説化されたものではないことの証明になるというわけだ。
まあ、一冊の本のキーポイントを数行で説明できるわけもないので興味のある方は一読していただきたいが、ごく一部だとしても長年の疑問にきちんと向き合った情報に巡り会ったのは嬉しい。

また、最近かなりの数のイエス・キリストに関する映画やTVドラマのDVDを見ているのも文化の違う私たちには一筋縄には理解しにくい部分を映像ならはっきりさせてくれると考えているからに他ならない。
事実前記した水をぶどう酒に変えた奇蹟の意味することが本当の意味で理解できたのは実に最近幾多のイエス・キリストをテーマにした映画やテレビドラマをDVDで見たからだ。
文字通り百聞は一見にしかずだが、それぞれ解釈やアプローチに違いはあってもこのシーンは母であるマリアが率先してイエスに神の子としての力を示す良い機会だから奇蹟を行ってみろと迫っている場面なのだと気がついた。それならイエスが「まだその時ではないのではないか」と躊躇する意味も理解できる。
さらに元はテレビドラマとして制作されたらしいが「JESUS 奇蹟の生涯」には布教を始めるころの若々しいイエスが登場し子供たちと遊び、よく笑い、前記した結婚式では列席者たちと踊るシーンもある。とかく受難物語に隠れてしまいがちだが、イエスはまだ若くいつも暗い表情をしている人物ではないはずでありさもありなんと思う。

というわけで、ともかくイエスに会うにはまずその公文書ともいえる聖書を手にしなければならないとこれまで一般的なバイブルはもとより「アートバイブル」といったものも手元に置いているが本格的なiPhone向け聖書があるというので購入してみた次第...。

bible_02.jpg

※iPhone版日本聖書協会による新共同訳聖書のアバウト画面


それが「モビリス聖書」であるが一般に無料として出回っている著作権期限切れの聖書ではなく、財団法人日本聖書協会から正規のライセンスを受けた「新共同訳」聖書だという点がポイントである。

bible_06.jpg

※「モビリス聖書」のインターフェースと本文表示例


無料版が多い中で3,000円は躊躇する方もいるかも知れないが、誰にでもお勧めできる類のアイテムではないし、格好をつけるわけではないがきちんとしたものにはきちんとした対価を払うのも大切だと思う。そしてなによりもiPhone 3Gで旧約および新約すべてが網羅された共同新訳の聖書がいつでもどこでも読めることは自称アマチュア “聖書研究家” の1人として大変嬉しいことである。

モビリス聖書
icon

関連記事
メイン広告
ネットショップ先行販売
ブログ内検索
New web site
[小説]未来を垣間見たカリスマ  スティーブ・ジョブズ
ジョブズ学入門
WATCH 講座
大塚国際美術館ひとり旅
ラテ飼育格闘日記
最新記事
お勧めの新旧記事
カテゴリ
リンク
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロフィール

appletechlab

Author:appletechlab

主宰は松田純一。1989年Macのソフトウェア開発専門のコーシングラフィックシステムズ社設立、代表取締役就任 (2003年解散)。1999年Apple WWDC(世界開発者会議)で日本のデベロッパー初のApple Design Award/Best Apple Technology Adoption (最優秀技術賞) 受賞。

2000年2月第10回MACWORLD EXPO/TOKYOにおいて長年業界に対する貢献度を高く評価され、主催者からMac Fan MVP’99特別賞を授与される。著書多数。音楽、美術、写真、読書を好み、Macと愛犬三昧の毎日。マネキン造形研究中。日本シャーロック・ホームズクラブ会員。日本リュート協会会員。ゆうMUG会員