浦久俊彦著「138億年の音楽史」読了〜本書こそがリベラル・アーツな1冊
浦久俊彦著「138億年の音楽史」(講談社現代新書)は新書版の小ぶりな1冊だがとてつもない1冊だった。リュート/月琴奏者の永田斉子さんのツィートに出てきたその書名に惹かれて早速手にして読み始めたが、最近では一番の1冊になりそうだ。音楽史とあるものの一般的な意味において音楽理論とか歴史や作曲家などを取り上げたものではない...。
「はじめに」の書き出しにあるように「音楽とは何か」を問うのが本書の目的だが、書名である "138億年" がビッグバンを意味していることから分かるように、射程距離は宇宙誕生から現代までとてもつなく広くまた深い。しかもそれを大著ではなくコンパクトな新書サイズに凝縮するというのが本書のミッションのようだ。
※浦久俊彦著「138億年の音楽史」(講談社現代新書)
とはいえ本書は学術書でもなければ体系的な音楽通史を扱ったものではないがそれこそ宇宙誕生から現在に至るまで、われわれはどんな過去にさかのぼっても音楽に出会うその "音楽" とは何物なのかをまるでミステリー書を読むように誘ってくれる。
決して難解ではないが一語一行毎の意味を噛みしめながら一通り読んでみた。簡単に読書後の感想などと平たい言葉を発する気にならないほど面白かったが、特に第6章「理性という音楽」に出てくるリベラル・アーツという語に惹かれた。
リベラル・アーツといえばあのスティーブ・ジョブズがアップルという企業を「われわれはリベラル・アーツとテクノロジーの交差点にいる企業だ」と自負したことばが記憶に残っているがそのリベラル・アーツである...。
※Appleを「われわれはリベラル・アーツとテクノロジーの交差点にいる企業」と主張するスティーブ・ジョブズ
しかしどうにも現在の我々にはリベラル・アーツといえば大学で誰もが身に付けるべき基礎教養的科目という理解が一般的だが、それではスティーブ・ジョブズのいう意味が理解できないに違いない。リベラル・アーツとは本書によれば「数論」「音楽」「幾何学」「天文学」という基礎科目をベースに「文法学」「修辞学」「論理学」が加わりリベラル・アーツと呼ばれる教養カリキュラムが生まれたという。そしてリベラル・アーツという言葉には「人間の精神を自由にするための教養」という意味が含まれているという。
この6章を読んでいてふと本書の意図や意味が少し理解できたように思えた。なぜなら本書「138億年の音楽史」は「音楽とは何か」をテーマにした1冊ではあるが、本書は比喩的にも1冊丸ごとがリベラル・アーツを具現化したそのものではないか...と閃いた。
なにしろビッグバン宇宙論から始まり、気になるキーワードを思うがままにピックアップすると、ヘーゲル、ピョタゴラス、哲学、5世紀〜6世紀ローマの哲学者ポエティウス著「音楽論」、旧約聖書の「創世記」、プトレマイオスとアレクサンドリア、ケプラー、ガリレオ・ガリレイ、ティコ・ブラーエ、神々の起源と音楽、キリスト教、カトリックとプロテスタント、イエス・キリスト、ルターと宗教改革、日本の神と音楽、国家の誕生と政治、戦争と武器と音楽、労働と音楽、古代ギリシャと音楽、政治イベントとしての国際音楽コンクール、ショパン、源氏物語、宮廷音楽の変遷、クレオパトラと音楽、古代中国と音律、職業の誕生と音楽家たち、ルイ14世と宮廷バレエ、ヴェルサイユの大祝宴、ヴァイス、バッハ、武器としての音楽、アウシュヴィッツのオーケストラ、鴨長明、感情と理性から描く西洋音楽史、オペラと歌舞伎、デカルト、ジャン=ジャック・ルソー、ジャン=フィリップ・ラモー、リベラル・アーツ〜知としての音楽、譜線記譜法の発明、マックス・ウェーバー、芸術としての音楽の誕生、録音メディアの発明、ビートルズ、超ひも理論、自然観と楽器の変遷、歌が創造する世界、DNA(デオキシリボ核酸)、音楽療法の未来、人体と宇宙...などなどとなる。
本書の帯にある「圧倒的教養」というコピーに納得せざるを得ない。
個人的にはこうした百科全書的なアプローチは好きなのだが「音楽とは何か」という赤い糸に導かれながら本書を読んでいると全てがすんなりと理解できるはずはないものの、それこそそれぞれのキーワードが考えるきっかけとなり精神が解放されていく感覚が宿ってくる。
これこそ読書の醍醐味であり目的ではないだろうか...。そして内容は深淵だが読みやすい。
なお最終章における筆者の結論については正直100%納得できないものの、本書で検証される音楽は我々人類にとっての音楽だからして、私たち人間の存在を抜きにしては語れないことだけは理解できる...。
音楽好きの方は勿論だが、逆にそうでない方にもお勧めである。
「はじめに」の書き出しにあるように「音楽とは何か」を問うのが本書の目的だが、書名である "138億年" がビッグバンを意味していることから分かるように、射程距離は宇宙誕生から現代までとてもつなく広くまた深い。しかもそれを大著ではなくコンパクトな新書サイズに凝縮するというのが本書のミッションのようだ。
※浦久俊彦著「138億年の音楽史」(講談社現代新書)
とはいえ本書は学術書でもなければ体系的な音楽通史を扱ったものではないがそれこそ宇宙誕生から現在に至るまで、われわれはどんな過去にさかのぼっても音楽に出会うその "音楽" とは何物なのかをまるでミステリー書を読むように誘ってくれる。
決して難解ではないが一語一行毎の意味を噛みしめながら一通り読んでみた。簡単に読書後の感想などと平たい言葉を発する気にならないほど面白かったが、特に第6章「理性という音楽」に出てくるリベラル・アーツという語に惹かれた。
リベラル・アーツといえばあのスティーブ・ジョブズがアップルという企業を「われわれはリベラル・アーツとテクノロジーの交差点にいる企業だ」と自負したことばが記憶に残っているがそのリベラル・アーツである...。
※Appleを「われわれはリベラル・アーツとテクノロジーの交差点にいる企業」と主張するスティーブ・ジョブズ
しかしどうにも現在の我々にはリベラル・アーツといえば大学で誰もが身に付けるべき基礎教養的科目という理解が一般的だが、それではスティーブ・ジョブズのいう意味が理解できないに違いない。リベラル・アーツとは本書によれば「数論」「音楽」「幾何学」「天文学」という基礎科目をベースに「文法学」「修辞学」「論理学」が加わりリベラル・アーツと呼ばれる教養カリキュラムが生まれたという。そしてリベラル・アーツという言葉には「人間の精神を自由にするための教養」という意味が含まれているという。
この6章を読んでいてふと本書の意図や意味が少し理解できたように思えた。なぜなら本書「138億年の音楽史」は「音楽とは何か」をテーマにした1冊ではあるが、本書は比喩的にも1冊丸ごとがリベラル・アーツを具現化したそのものではないか...と閃いた。
なにしろビッグバン宇宙論から始まり、気になるキーワードを思うがままにピックアップすると、ヘーゲル、ピョタゴラス、哲学、5世紀〜6世紀ローマの哲学者ポエティウス著「音楽論」、旧約聖書の「創世記」、プトレマイオスとアレクサンドリア、ケプラー、ガリレオ・ガリレイ、ティコ・ブラーエ、神々の起源と音楽、キリスト教、カトリックとプロテスタント、イエス・キリスト、ルターと宗教改革、日本の神と音楽、国家の誕生と政治、戦争と武器と音楽、労働と音楽、古代ギリシャと音楽、政治イベントとしての国際音楽コンクール、ショパン、源氏物語、宮廷音楽の変遷、クレオパトラと音楽、古代中国と音律、職業の誕生と音楽家たち、ルイ14世と宮廷バレエ、ヴェルサイユの大祝宴、ヴァイス、バッハ、武器としての音楽、アウシュヴィッツのオーケストラ、鴨長明、感情と理性から描く西洋音楽史、オペラと歌舞伎、デカルト、ジャン=ジャック・ルソー、ジャン=フィリップ・ラモー、リベラル・アーツ〜知としての音楽、譜線記譜法の発明、マックス・ウェーバー、芸術としての音楽の誕生、録音メディアの発明、ビートルズ、超ひも理論、自然観と楽器の変遷、歌が創造する世界、DNA(デオキシリボ核酸)、音楽療法の未来、人体と宇宙...などなどとなる。
本書の帯にある「圧倒的教養」というコピーに納得せざるを得ない。
個人的にはこうした百科全書的なアプローチは好きなのだが「音楽とは何か」という赤い糸に導かれながら本書を読んでいると全てがすんなりと理解できるはずはないものの、それこそそれぞれのキーワードが考えるきっかけとなり精神が解放されていく感覚が宿ってくる。
これこそ読書の醍醐味であり目的ではないだろうか...。そして内容は深淵だが読みやすい。
なお最終章における筆者の結論については正直100%納得できないものの、本書で検証される音楽は我々人類にとっての音楽だからして、私たち人間の存在を抜きにしては語れないことだけは理解できる...。
音楽好きの方は勿論だが、逆にそうでない方にもお勧めである。
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